腸の健康の秘めた力を発揮させる「NS乳酸菌」

腸とメンタルの状態が密接な関係にあったということが、最近の研究で明らかになってきています。こうした研究を背景に、高い整腸作用が期待されている、伝統的なモンゴルの食事の中から発見されたNS乳酸菌が注目を集めています。

注目され始めたメンタルヘルスと腸の関係

ストレスが原因となって、腹痛、下痢、便秘、おならなどの症状が繰り返し出る過敏性腸症候群（IBS）は、近年よく知られるところとなりました。IBSは、ストレスにより腸のぜん動運動が異常をきたすことで起こります。ぜん動運動が過剰になると、水分が腸内で十分に吸収されず下痢状態になり、逆にぜん動運動が鈍くなると、食物が長く腸にとどまるぶん水分も多く吸収されて便が固くなってしまうのです。
腸の不調がメンタルに影響を与えることもあります。便秘が続くとイライラする経験は、多くの人が持っているでしょう。これは、お腹が圧迫されて苦しいということもありますが、腸内に便が長時間とどまることで発生する有毒ガスが血液に溶け込み自律神経を刺激することで、心身が興奮状態となりイライラするのです。
このように、腸と脳と心は密接な関係にあります。実際、腸と脳は神経系や情報伝達物質で双方向のコミュニケーションネットワークが形成されており、「腸脳相関」という考え方も一般的になってきています。また、セロトニンの多くは腸で合成されています。セロトニンそのものは脳血管の関門を通過できないため、腸でつくられたセロトニンを脳が直接使うことはできませんが、その前駆物質である5-HTPは、脳血管関門を通過し、脳内でセロトニンとなります。この5-HTPも腸内で合成され、そこには腸内細菌が深く関わっています。つまり、5-HTPが多く合成されるような腸内環境を整えることが、心の不調の改善にも有効だと言えるでしょう。そうしたことから近年注目されているのが、NS乳酸菌です。

モンゴル伝統食から発見されたハイパワー乳酸菌

NS乳酸菌は、「人や動物の食べる物はほとんど消化する」といわれるほどの、高い消化力を持つ乳酸菌です。単種ではなく、複数の種類の総称として呼ばれています。
この乳酸菌群を発見したのは、内モンゴル自治区の出身で、中国科学院心理健康重点研究室教授の金鋒博士。東京大学理学部で学んだこともある博士は、2003年にSARS（重症急性呼吸器症候群）が世界的に流行した際、SARSに感染して肺炎を起こしている患者に日本の友人にもらった乳酸桿菌（棒状の乳酸菌）を毎日鼻から入れてみたところ、症状が劇的に改善するという経験をしたそうです。これがきっかけとなって乳酸菌の研究を開始。さまざまな乳酸菌を採取して、数百種類にものぼる単菌を分離。遺伝子解析により生物学的特性を特定し、大型の桿菌で増殖力が高いものを選んだところ、結果的に、モンゴルの伝統食である原生ネギの漬物や馬乳酒から得た乳酸菌ばかりが残りました。通常の乳酸菌の数十倍も大きく、ハイパワーなエリート集団。それが、モンゴル生まれのNS乳酸菌です。

腸内でより活発に働くのは「野生」で「若い」菌

NS乳酸菌は、養豚、酪農などに活用され、家畜の致死率低下、食肉の肉質改善などの効果を上げていました。ところが、あるとき養豚でNS乳酸菌を使っていた農場主が「以前より効果が落ちている」と言ってきたそうです。半信半疑ながらも調べてみたところ、同じ菌種でありながら、もともとの菌と培養して増やした菌では増殖力に違いがあることが分かりました。飼いならされたペットが野性味を失っていくように、菌も長期間培養を続けていると徐々に活力が落ちてしまう。それは、驚くべき発見でした。
もう一つ、金鋒博士は乳酸菌に関してこれまであまり重視されていなかった点に注目しています。それは、同じ菌種でも成長の段階によって、腸内での活動が違うということです。すなわち、培養初期でまだ乳酸菌をつくらない段階の「原生性乳酸菌は」、腸内にある他の菌の邪魔することなく共生状態のまま爆発的に増殖します。一方、成熟して乳酸菌をつくるようになった段階の「抗生性乳酸菌」は、腸内で他の菌の増殖を抑制し、自身はあまり増殖しないのです。（図：「乳酸菌の発酵性質の変化」参照）
以上のことから、消化や排毒を目的に乳酸菌を摂取する場合は、人工栄養による培養ではない「野生」の原生性乳酸菌（共生性乳酸菌）が良いと、金鋒博士は結論づけています。ストレスからくる便秘や下痢、腸内有毒ガスを起因とするイライラなど、心の不調にも大きく関わる腸。NS乳酸菌の研究から、メンタルケアの新たな可能性が見えてきます。